前回の記事で「例の件ですが」「例の件なんですが」の違いについて言及しました。
ここで問題となる「んです」は、多くの初級日本語テキストに学習項目として出てきます。
つまり、教師はそれが教えられなきゃいけない。
では、どういうときに使うのか、どんな意味があるのか今日はそれを考えてみたいと思います。興味のない方はスルっとスルーしてください。
(お、今日はなんだかアカデミックなにおいがするぞ!)
日本人なら自然に使い分けができる「んです」。これは適切に使わないと「うざい」感じがするのも事実です。
試しに、ここまで私が書いた文章の語尾をすべて「んです」に変えて読んでみてください。おかしくないところもありますが、全部だとおかしいですよね。必要なところで適切に使わないと、おかしくなるんです (←!)。
では、先に申し上げた「初級テキスト」ではどのように提出されているかというと、下記のようになっています。
『みんなの日本語2』第26課
「あのう、ごみを捨てたいんですが、どこに出したらいいですか」
「それから、お湯が出ないんですが…」
「困ったなあ。電話がないんです」
『新文化日本語初級1』16課
病気の症状とともに
「どうしたんですか」
「頭が痛いんです」
『げんき1』12課
「メアリーさん、元気がありませんね」
「うーん。ちょっとおなかが痛いんです」
ただ、『新文化』では、病院で医者と患者との会話では、医者は「どうしたんですか」ではなく、「どうしましたか」と言っています。
ここで、学生は混乱します。いわゆる、使い分けの問題です。
ここからが、教師の仕事です。
(探偵ホームズになった気分で)
「どうしましたか」と言うのは誰、どんなとき?
「どうしたんですか」と言うのは誰、どんなとき?
「何を食べますか (召し上がりますか)」と言うのは誰、どんなとき?
「何を食べるんですか (召し上がるんですか)」と言うのは??
例えば具合が悪くて病院で診察を受けるとき、「どうしたんですか」と聞く医者はあまりいないと思いませんか。
それから、ファストフードの店で注文するとき、「何を召し上がるんですか」と聞く店員もいないと思います。
それはなぜでしょうか。
同様に「寒いですか」「寒いんですか」のように、疑問詞が入っていない形の質問も考えてみましょう。
私なら、具合の悪そうな人に「大丈夫? 今寒いですか?」と聞きます。で、冷房の効いた部屋で、エアコンをチラ見して無言で上着を着る人を見たら、その人には「あ、寒いんですか?」と聞きます。
同様に、単なる疑問として「今雨が降っていますか?」と聞くのは、降っているかいないか、どちらか知りたいとき。友達が濡れた傘を持って入ってきた、その傘を見て自分の判断を確認したいときには、「今雨が降っているんですか?」と聞きます。
つまり、「んですか」は、自分ではそう思うが、確信が持てない。そして事実を知りたい。そんな気持ちになったとき発せられる質問の形だと思うのです。
「どうしたんですか」というのは極端に言えば「この人、何かがおかしい。それはわかる。でも具体的に何がどうおかしいのか、わからない。知りたい」と思うときなわけです。患者は異状があるから病院へ来ているわけで、医者にとってそれは当然の前提となっています。
「何を召し上がるんですか」というのも、客は食べるために買いに来ているのだから、それが前もってわかっている場合には「んですか」で聞かないほうが自然だと思います。
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