facebookページでちょこっと紹介した、「EUフィルムデーズ」。
各国大使館が厳選するヨーロッパ映画が、ワンコインで楽しめるイベント。
日時は限定されてしまいますが、未公開のものも数多く、年一度のこの時期を楽しみにしているファンも多いはず。
わけあって以前からアイルランドと縁のあるわたしは、第一回目の上映会を手伝わせていただいて以来、たびたび足を運んでいます。
今年のアイルランド大使館が選んだのは、ドキュメンタリーフィルム『men at lunch』。男たちの昼食時のひとときを切りった、1枚の写真を意味します。
こちらがその写真なのですが…これ、どこかわかりますか?
大都会ニューヨークの象徴ともいえる高層ビルの、梁の上です。
ときは1930年代。いまほど建築技術の発達していない当時、ニューヨークの高層ビルを文字通り「建てた」のは、アイルランドを中心に世界中からニューヨークにやってきた、貧しい移民たちだったのです。
当時の様子を静かに、同時にダイナミックに語り継ぐこの写真、一度見たら忘れられないほどのインパクト。なぜって文字通り空中でお昼を食べているんだもの。
このことを映画好きの父に話すと、「その写真は昔、『LIFE』誌に掲載されて話題になったことがあるんだよ。でも映画になったのは知らなかった」と言っていました。そういうわけで写真も映画もすきな2人で、「じゃあ観に行こうか」という話に。
そんなやりとりをした数日後のことです。
行きつけの書店でいつものようにあてどもなくさまよっていたら、ある少女と目が合いました。
壁に立てかけられた1冊の本の表紙からじっとこちらを見ている少女。
写真というのは「二次元」のものですが、力のある写真というのはどこか立体的というか空間的というか、見ているこちらがその中に、その世界に吸い込まれるような感覚になるものです。
自分の立っている側と写真の中とどちらが現実か、一瞬区別できなくなる。
この少女もおんなじでした。
カメラのレンズを通り越して明らかにわたしに語りかけてきたその瞳。
本を手に取らずにはいられませんでした。
本の名は『ちいさな労働者』。
何気なくぱらぱらと開いたページを見て驚きました。
命綱もつけずロープ1本にしがみついている、ある若者の「空中写真」に。
まちがいない、あの作業員の写真だ…!*
昼食の写真はありませんでしたが、景色を見ると明らかにニューヨーク。
撮影された作業員の風貌はまさに『men at lunch』の男たちと同じ雰囲気でした。
どういった縁でこのタイミングでこんな本に巡りあったのか…。
作業員の写真は本に載っている写真のごく一部でした。
本に掲載されている多くは、幼くして働かされていた移民のこどもたち。
これらを撮った写真家の名は、ルイス・ハイン。もとは教師でした。
(わたしとおんなじ…)
彼は19世紀から20世紀にかけアメリカにやってきた移民たち、とくに小さなこどもたちが炭坑や綿花農場で働かされている過酷な事実を知り、「写真」という手段で世に訴えたのです。
後に彼の写真が「こどもの人権」を考えさせるきっかけをつくり、アメリカの人権思想を変えた男とも言われているのだそうです。
そんなルイスが晩年、第二のライフワークとして取りかかったのは、エンパイアステートビルと、その建設に携わる移民たちでした。
(*当時は高層ビルの建築ラッシュで、その様子の撮影を任された写真家は彼だけではないとのこと。『men at lunch』を撮った写真家は実は今も誰なのかわからないそうです)
ルイスは晩年、経済的に大変苦労して、業績が讃えられたのも実は亡くなってからだそうです。
ニューヨークの高層ビルを建てたのも、そのほとんどは名前も知られていない移民たちなのです。
…今現在、自分が世の中に認められないと感じている人、おおぜいいると思います。
でも、自分がやりたいと感じたことは、(誰かの役に立つと言えることなら特に)自信を持ってやっていいし、やめてはいけないと思います。
移民たちが造った街が、いまや世界を代表する都市となったように。
無名の写真家が撮った写真が、その何十年もあとに、こうして国も文化も違うだれかのこころを動かしているように。
それは、きっと、あなたにしかできないことなのです。
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The 2nd photo has taken by Lewis Hine
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